私は分譲マンションの管理を本業としているのですが、「管理業務主任者」という必須資格がございます。
「管理業務主任者」とは、マンション管理業者が管理組合等に対して管理委託契約に関する重要事項の説明や管理事務報告を行う際に必要な国家資格者のことです。
この資格は5年更新となり、私の有効期限が今年の3月末日までのため、更新手続きをしたのですが、大阪会場は毎回、大阪市中央区にある綿業会館で行われます。
綿業会館(めんぎょうかいかん)は大阪府大阪市中央区船場にあるルネサンス風の歴史的建造物。三休橋筋に面して立つ。2003年12月25日に国の重要文化財に指定され、2007年には近代化産業遺産に認定された。
出典/Wikipedia
築90年の歴史的建造物ということで、外観や中身はとても歴史を感じます。

建物西側からの外観はこんな感じ👇

建物の中に郵便ポストがありました👇

今も使っているのでしょうか。
レトロでオシャレですよね。
エレベーター👇

この扉、メチャクチャかっこいいですね。
1階の食堂👇

今回は講習での訪問のため、見学はできませんでした。
通常は館内見学は毎月第4土曜日に実施しており、見学料500円が必要となります。
昼食付の3,000円というコースもあります。
とてもレトロでオシャレな建物ですので、一度昼食付の館内見学に参加してみたいですね。定員35名とのことです。お問い合わせはこちらからどうぞ👇
さて、本来の目的である管理業務主任者の講習ですが、朝9時受付の9時30分開始、17時終了の長丁場でした。
開始早々に会場前方の方で具合が悪くなった方がおり、救急車で運ばれました。このため、10時くらいから開始となりました。
私は後ろの方にいましたので状況が分からなかったのですが、とにかく無事を祈ります。
講習は全4時限での構成でした。
1限 | マンション管理適正化法その他関係法令 |
2限 | 管理事務の委託契約及び管理組合の機関と運営等に係る紛争事例 |
3限 | 管理組合の会計の収入及び支出の調定並びに出納 |
4限 | マンションの建物及び附属設備の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整 |
この中で2限目の紛争事例は結構面白かったですね。過去のマンション管理に係る判例が事件の概要、問題点、裁判所の判断といった3部構成で、配られたテキストをもとに解説がありました。
テキストには他にもたくさんの紛争事例が記載されていました。
そのテキストの中で、今回の講習では解説はなかったのですが、面白い案件がありましたのでご紹介します。
【紛争事例】
刺青をしている者はトレーニングルームの利用を制限するとの規約の定めは、刺青をしている区分所有者に特別の影響を及ぼすか
ー東京地方裁判所 平成23年8月23日判決ー
簡単に結論から申し上げますと、高級マンションにフィットネスジムとサウナが併設されており、区分所有者(お部屋のオーナー)は自由に利用できるのですが、刺青(和彫り)をしている方が利用していることから、刺青のある方の利用をマンションのルールで禁止したところ、刺青の方が、利用を求めて訴訟を提起→結果、刺青の方の請求を棄却(刺青の方は利用禁止)
では、ここからテキストの内容を詳しく記載します。
(1)事件の概要
東京池袋所在の300戸を超えるマンションで、2階にはトレーニングルームがあり、フィットネスやサウナなどの共用施設が設置され、入居者であれば自由に利用できるようになっていた。
マンション分譲後1年半経過した頃、管理組合Yは、総会を開催した。その具体的内容は、第1号議案が「暴力団等反社会的勢力の入居の阻止について」、第2号議案が「ジャグジー、サウナの使用細則の追加・変更」であり、第2号議案の3には、サウナの使用細則8条の追加規定として「タトゥ(プリントである場合を含む)をしている人は、ジャグジー、サウナを利用することを禁止する」旨の利用禁止条項が追加され、さらに、フィットネス使用細則11条(利用管理)は「フィットネスラウンジについて個別利用管理を行い、利用する個人は一定の遵守事項を承諾したうえで、登録を行わないと利用できないものとする。登録対象者は、入居届の提出されている人物のみとし、登録時には本人確認の資料を提示し、管理組合には当該資料の写しを保管する」との内容で改正され、その登録用紙には「刺青の有無」の記載が求められるものであった。
この議案に区分所有者Xは強く反対したものの賛成多数で管理規約の改正がなされ、この改正を受けてYは、エレベーター内に「2階ジャグジー、フィットネス入退室方法変更のお知らせ」と題する書面を貼った。Xはこれに基づき、利用申込の登録申請をしたが、刺青があるため利用申込書の受領を拒否され、登録カードを発行してもらえず、共用施設を利用できなくなった。
そこでXはYに対し、トレーニングルームの使用許諾を求めて訴訟を提起した。
なお、Xは首の下から臀部までに至る「和彫の総彫り」の刺青をしていた。
(2)問題点
①刺青をしている者はトレーニングルームの利用を制限するとの規約の定めは刺青をしている区分所有者に特別の影響を及ぼすか
(3)裁判所の判断
Xの請求を棄却した。
①について
Xは、YがXの利用を拒否する目的で臨時総会を開催し本件管理規約を改正したものであること、刺青をファッションと考えることもできるし暴力団と結びつけることは偏見以外の何ものでもないなどと主張する。
しかし、区分所有者の間で、Xの刺青などが原因で、共用部分の利用を改めようということになり、本件管理規約の改正に至ったものであるが、この原因だけでなく、暴力団の巣窟と言われる池袋にある本件マンションの立地条件や周辺環境から反社会的勢力を極力排除する必要があり、警察署などからも暴力団排除の指導を受けていたこと、高級マンションの品位を保ち、資産価値を維持するため、共用部分の利用にあたり社会的に健全と認められる者の利用に限定する必要があったこと、刺青をした複数の男女が確認されていること等を踏まえての総会議案であり、Xだけを排除する意図でなされた決議とまではいえない。
また、日本文化の中では、刺青は単なるファッションではなく、一般市民の中には、反社会的勢力との関係を疑い、畏怖を感じる者も少なからず存在する。特に、デザイン、色合い及び大きさなどに照らし、著しい畏怖感、嫌悪感を抱く者がいることは容易に想定できる。公衆浴場や民営プールなどにおいて、当然のように刺青をした者の入場を制限していることからも、一般市民の中で刺青をした者は異端の存在として社会的差別を受け、かつ、その社会的差別は一般市民の中で許容されているのが実情である。
人は生まれながらにして刺青をしているわけではなく、その後の人生の中で自らの意思で刺青を施すものであるから、刺青をする者は、その後の人生の中で刺青をすることによりなされる社会的差別を受忍する義務がある。
以上により、刺青の有無により区別を設ける本件管理規約の改正がなされたことが直ちに違法とはいえない。
本件マンションは、共用施設が自由に利用できることが宣伝文句となっており、Xが本件建物購入の際には刺青の有無の記載はなかったが、上記宣伝文句の中で、各施設の利用については管理規約、使用細則による利用の定めがあることが記載されている。また、300世帯を超える区分所有者の中には刺青に嫌悪感を抱く者が少なからず存在し、刺青の差別社会の中で生活してきたXにおいて、将来的には管理規約や使用細則の改正等がありうるのを予見できたはずでもあるから、本件管理規約の改正により、事実上、Xの使用が制限されるとしても、直ちに本件管理規約の改正が違法となるものではない。
Xは共用施設の管理費用を他の者と同一条件で支払っているが、管理費や共用部分の維持保全のため様々な用途に使われるものであって、あらゆる区分所有者に全て等しく有用であるとは限らないし、仮に、不公平が生じたとしても直ちに不合理とは認められない。
Xは、刺青の肌を晒すことのないフィットネスの入室まで禁止することは明らかにXの受忍限度を超えるものであると主張するが、フィットネスの利用の際にレオタードの種類などにより他者に刺青が見えたり、付随して利用されるロッカーの使用の際に刺青が他者に見えたりすることも想定されるので、一律禁止の本件管理規約の改正が直ちに違法であるとは言い切れない。
区分所有法31条の「特別の影響を及ぼすとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益を比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らしてその不利益が区分所有者の受忍限度を超えると認められる場合を指し、前述のとおり、本件管理規約の改正により、Xの受忍限度を超えるものと認めることはできないから、Xの同意は不要である。
出典/マンション管理に係る紛争事例集
壮絶な争いがあったのでしょうね。私の個人的意見は差し控えますが、私の仕事上の立場で言えば、このマンションの管理会社のフロントは当時、相当ご苦労されたのではないでしょうか。本当にお疲れさまでした。
他にも面白い判例がいくつもありました。ご要望があればまたの機会にご紹介します。
ではまた。


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